机上のパソコンには、ニュースや天気予報が、ショッキングな映像が、世界各国の天気が、時には有名人の中傷までもが、24時間絶え間なく飛び込んできます。現代人は、情報の海の中を泳ぎ疲れているかのようです。こうした人々の心を癒し、次の課題に取り組む勇気を与えてくれるのは、何といっても、高い品性と技術に裏打ちされた芸術です。音楽、絵画、彫刻・・・
ところが、我が国では「芸術は高尚で、難しいもの」であり、芸術を理解するため「難しいのは当たり前」、「我慢するのが当たり前」、「分からないのは君の勉強不足」と言われており、遥かに遠い存在になっています。
勿論、持てる才能に、絶え間なく磨きをかけている芸術家への、称賛と敬意を示すことは当然です。しかし、あまりにも、高尚で近寄りがたい存在になっていることも否めません。芸術は、高い壁の向こうに聳え立っており、近づきたくても、近寄れない存在になってることも指摘されています。
海外に目を移してみますと、国際社会では芸術が共通語になり、1曲のバリトンの歌声が、1曲のピアノ演奏が、豊かな共感を醸し出し、深い人間関係を築いています。
芸術が、政治・人種・生活環境・宗教・歴史背景など、あらゆるものを超えて、人間同士の深い繋がりを作っています。
こうした背景を見据え、今こそ私たちの人生の中に、積極的に芸術を取り入れ、「アートに囲まれた人生」を築くべき時であると考えます。
東京芸術財団では、既存の概念に捉われることなく、独自性の強い自由な発想で、新しい芸術文化の創造に取り組んでまいります。
この為、世界中から選りすぐった芸術を、分かり易く、ゆったりとした環境で鑑賞して頂き、心からの感動を味わって頂こうと考えています。勿論、ユニークな発想で、皆さんがアッと驚く大胆な演出は欠かせません。
同時に、優れた才能と磨かれた技を持つ、次代の芸術家に上演の機会を作り、世界の舞台へ羽ばたくチャンスを作って参ります。
こうした趣旨にご賛同いただいた、栗林義信先生や大友直人さんをはじめ、優れた芸術家の方々を財団の役員にお迎えし、これからの活動にお力添え頂けますことは、私どもにとって、大変ありがたく力強い限りでございます。
次世代の日本人が豊かな芸術性を身に付け、国際的感覚で活躍できるような、文化国家を実現させる努力をして参る所存でございます。こうした趣旨をお汲み取り頂き、皆様方の深いご理解と、暖かいご鞭撻、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
一般財団法人 東京芸術財団理事長
井上康道